ブライトリング / インフォーマル ラグジュアリーの旗機

新たなプロダクトストラテジーの試金石となるインフォーマルラグジュアリーの旗機 かつてブライトリングが、パイロットウォッチとしての名声を揺るぎないものとした1940年代。その成功を下敷きとして、ラグジュアリーブランドへと飛躍する転換点となったモデルが「プレミエ」であった。当時ウィリー・ブライトリングが仕掛けたこうしたストラテジーは、ジョージ・カーンが率いる新生ブライトリングの方向性と、ある面で完全な合致を見せている。十分な時間をかけて練り上げられた新たなコレクションが、再び「プレミエ」の名を冠したことも、決して偶然ではないのだ。 ジョージ・カーンのCEO就任から1年を経て、ブランドのリポジショニングを推し進める新生ブライトリングコピー。シュナイダー体制からの大きな変化は、パイロットユースに特化した〝腕上の計器〞といったイメージに加え、ニューセグメントへの積極的な参入である。カーン体制となって初めてローンチされた「ナビタイマー 8」が、1930〜40年代のアーカイブから着想を得て、よりヘリテージ感を高めたことは象徴的な事例だろう(もちろん回転計算尺付きのモデルは「ナビタイマー 1」としてラインナップに残されている)。リファレンスを絞り込んでセグメントを明確化することを目的に再設定された「エア、シー、ランド、プロフェッショナル」という製品区分の中で、ランドカテゴリーには新たに〝エレガント〞というサブテーマが設けられた。これに伴い旧来の「クロノマット」は、(驚くべきことに)〝ランドカテゴリーの中で、よりモダンなデザイン性を持ったコレクション〞という新たなキャラクターが与えられている。  さて、エレガントイメージを強調する新たなランドカテゴリーのハイライトとして用意されたのは、あの懐かしき「プレミエ」の名であった。オリジナルが登場した1940年代は、世界情勢が混沌としてゆく中で、クロノグラフの在り方にも変化が求められた時代。それまでのブライトリングが得意としてきた〝プロフェッショナル向けの航空時計〞が、軍用のツールというイメージを強めてゆく中で登場したプレミエは、同社の時計作りの方向性が、パーパス(目的)からスタイルへと転換を遂げたことを象徴するモデルでもあった。これはそのまま、新生ブライトリングが模索する〝インフォーマルラグジュアリー(=日常を共にする贅沢)〞という方向性の、フラッグシップとしての役割を担うニュー・プレミエにも当てはまろう。 ジョージ・カーンのCEO就任と同時に再編されたデザインチームの初作となった「ナビタイマー 8」が、やや〝急ぎ足〞のプロダクトだったことを思えば、新しいプレミエは、じっくりと腰を落ち着けて練り上げられた〝新生ブライトリングスーパーコピーの試金石〞と呼ぶべきコレクションと言えるだろう。それだけに、筆者自身も見る目を厳しくしてロードショーに臨んだのだが、それはまったくの杞憂であった。新たなプレミエは、オリジナルが持っていたエレガントな雰囲気を重視しながらも、従来のあらゆるプロダクトと異なるデザイン性を備えていたのだ。自らデザインに携わることもあるというジョージ・カーンは次のように語る。 「私は新しいプレミエを、単なるヴィンテージリバイバルにはしたくなかった。過去の歴史的資産をベースに現代的なアレンジを加え、エレガントでサステイナブルなデザインを再構築することが使命でした。さらに言えば、複雑なイメージをもっとスッキリとさせたかったのです」  新しいプレミエを象徴するのは、ミドルケース側面に設けられた3本のグルービングだ。ある種の〝スピード感〞を表現しつつ、ケースサイドの面構成に抑揚を加えている。さらに言えば、従来のブライトリングのケースは、冷間鍛造+仕上げ切削を基本としてきたが、このミドルケースは切削加工を主体としたものと思われる。旧来からのメインサプライヤーに加えて、カーン体制となって以降に新たな血筋が導入されたことすら想像させる。これはダイアルに関しても同様だ。 新生プレミエのデザインで最も秀逸な点は、ベゼルとバックケースのバランス取りだろう。ケースサイドが切り立った(断面形状が直線的な)造形の場合には、ベゼルやバックケースはキッチリと〝面一〞に仕上げるのがセオリーだが、新しいプレミエでは両者ともに、ミドルケースから大きくはみ出させている。ベゼルやバックケースのエッジには、適度な丸みが設けられており、それがミドルケース側面のグルービングと相まって、ゴド ロン装飾にも似た視覚効果を生み出しているのだ。スポーツウォッチ然としたプロポーションを維持したまま、スーパーコピー腕時計全体としては柔らかなエレガントさを感じさせてくれる、実に巧みな〝仕掛け〞だろう。 「ちょうど1年前、我々は〝ゼロからの再出発〞を切りました。コーポレートアイデンティティも含めて、すべてを再検証したのです。詳しくは言えませんが、2019年にはインハウスの体制をさらに強化するためのプロジェクトも進めています。ひとつだけ明言できることは、我々は経済状況を反映したモノ作りは行わないということです。限られたリファレンスの中で、多様なアイデアを表現してゆくこと。特にブランドの歴史から汲み上げられる要素は無数に存在しています」  アーカイブを再検証し、新たなフィールドへと歩み始めた新生ブライトリング。それはウィリー・ブライトリングの時代への回帰のようにも感じられる。「ウィリーは『ブライトリングを身に着けることがセンスの証明になる』と述べています。私もまったく同感ですが、私が最初に思い描いたプロダクトポートフォリオはまだ完成していないのです。それが披露できて初めて、ウィリー時代、シュナイダー時代を経た、新しい〝カーンの時代〞が訪れたと言えるでしょう」